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社会政策学会(奨励賞)受賞にあたって(2006年6月)

日本福祉大学社会福祉学部 近藤克則

2006年6月3日の第112回社会政策学会総会において,拙著「健康格差社会-何が心と健康を蝕むのか」(医学書院,2005)で第12回社会政策学会賞(奨励賞)を受賞しました.

本書では,日本がすでに「健康格差社会」になっていることを指摘するだけでなく,なぜ健康格差が生まれるのかというプロセスについての理論仮説も提示しました.生活習慣病対策や介護予防に代表される今の健康政策が,自己責任を問うような個人レベルに偏重した対策であるために失敗するであろうこと,国民の健康度を上げるためには,所得再配分やソーシャルキャピタル(Social Capital)を豊かにするような社会政策も重要であることなどを述べました.拙著は,タイトルから想像すると,医療分野の著作に思われるかもしれません.しかし,本書をお読みいただければわかるように,健康を規定する社会的要因を解き明かす社会疫学と社会レベルの対策としての社会政策の重要性を伝えたいと願って執筆しました.その思いが受け止められ,伝統ある社会政策学会(下記参照)という社会科学系の学会賞をいただけたことを,大変うれしく,かつ光栄に思います.

ただし,選考経過報告でも「研究としては、まだ最初のステップをふみだした段階にあり、完成の域にはいたっていない」と指摘されており,「もっとこのテーマで研究せよ」と言う「奨励賞」です.  今後も,研究に邁進したいと思います. まず,本書で示した理論仮説群を,AGESプロジェクトの約3.3万人の高齢者データを用いて検証した結果については,「健康の不平等」研究会の仲間とともに,すでに「公衆衛生」誌の連載「日本の高齢者」において報告しました.それらを束ねた,いわば「健康格差社会-実証編」を医学書院から出版すべく現在編集中です.また,10月からの「保健師ジャーナル」での新たな連載「健康格差社会への処方箋(仮題)」の執筆準備をしています.さらに,科学研究費補助金(2006-2009)を得たので,AGESプロジェクトのコホート研究wave2006に,今年度から着手する予定です.

引き続き,皆様のご理解とご協力,ご指導をよろしくお願いします.

2006年6月

社会政策学会は, 労働問題、社会保障、社会福祉、生活問題など広い意味での「社会政策」を研究対象とする、経済学、社会学、法律学、政治学、歴史学など多分野の研究者が集うインター・ディシプリナリーな学会です.戦前の社会政策学会が発足したのは1897(明治30)年という伝統ある学会です.

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