【訳著紹介】カワチI, ケネディ BP(西信雄ほか監訳,社会疫学研究会訳): 不平等が健康を損なう,総頁195,日本評論社,2004 年10 月,2400 円+税 (原本: Kawachi I, Ke
本書は,「世界中で進行している社会経済的な格差拡大は,国民の健康に悪影響を及ぼす」と警告し,話題となった本の日本語訳である. 日本では,CEO の給料は平均的な労働者の10 倍程度だが,アメリカではなんと530 倍である.イチローのような大リーガーには,10 億円を超える報酬が払われる国である.その背景には,一日1 ドル以下で暮らす多くの貧困層が存在する.このような貧富の格差は,日本でも拡大しており,世界的にも南北間で格差は拡大する一方である.これらの社会経済的な格差が,単に倫理的・道義的に問題なだけ でなく,先進諸国においては,国民の健康に悪影響を及ぼしていることを,本書では多くの実証データ で示している.例えば,アメリカは豊かな国だが,その平均寿命はOECD 加盟30 カ国の中では下から 数えた方が早い.そして,アメリカ国内で見ても,所得格差の大きい州ほど年齢調整死亡率は高い.な ぜ社会経済的な格差が,健康に悪影響を及ぼすのかという疑問にも答えている.彼らによれば,所得格 差が拡大すると,コミュニティにおける信頼感など社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が切り崩 され,それが人々の健康に影響を及ぼす.社会経済的な不平等は経済成長にとって必要悪である,という意見にも反論している.例えば,大リ ーグのチームにおけるプレーヤー間の報酬格差が大きいチームほど,チーム勝率は低く,観客動員数は少ないという.また,経済的な豊かさは,必ずしも個人や社会の幸福やwell-being などをもたらしてはいない.両者の間には乖離があり,近年では,その乖離はますます大きくなってきている.つまり,経済的繁栄の追及のための必要悪として社会経済的な不平等を拡大することは,その効果に疑問があるだけでなく,経済的繁栄そのものが国民の福祉・well-being を保証するものでもない.さらに,国民の健康状態(The Health of Nations)に悪影響を及ぼすのであれば,社会経済的な格差拡大は容認されるべきではない.これが,社会疫学者である彼らのメッセージである. (本書は,近藤も参加する社会疫学研究会のメンバーで分担翻訳したものであり,近藤は第9 章結論を担当した)