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抄読会を開催致しました

 7月13日(水)の院ゼミにて抄読会を開催致しました。

今回は当教室助教の佐々木 由理 先生が担当されました。

【書誌情報】 JAMA (The Journal of the American Medical Association) Psychiatry 2015/2016 Impact factor 14.4 JAMA ネットワークジャーナルの1つ(JAMA&11の専門誌) 年間アクセス・ダウンロード数:340万 アクセプト率13%(年間受領雑誌1200中)

【筆頭著者のチームに関する情報】  ニュージーランドに所在するオタゴ大学(ニュージーランド最古の大学1869年~.Kawachi先生もMDを取得されている)で最も大きな学科の1つであるの精神医学科のチーム(40人以上のスタッフと約200名の研究員や院生が所属).筆頭著者は精神医学科の名誉教授であり,クリストチャーチ地区で1977年に生まれた1265人の35年バースコホートのリーダー.現在は,社会開発庁の顧問.35年バースコホートでは,心理,精神医学,小児研究,疫学,医療経済学,社会学など多岐に渡る435以上の本,レポート,論文が発表されている.

【なぜこの論文を選んだか】  JAGESは研究フィールドの1つに宮城県岩沼市は東日本大震災の被災地を含む.世界でも稀有な災害前後のデータを用いることが可能である.現在,災害後の住居環境とうつ発症の関連について,分析を進めている.本論は,数少ない自然実験データを用いた,メンタルヘルスに関する研究成果であり,インパクトファクターの高い雑誌に掲載されている論文である.分析手法や,考察の展開など参考にできる論文であると考え,選択した.

【抄録】

本研究の意義

 災害後のメンタルヘルスに関する研究は多く存在するが,災害前からのメンタルヘルスを評価した研究はほとんどない.本研究は,35年バースコホートを用いている.対象者の57%がたまたま2010-11年のカンタベリー地震(1)に遭遇しており,残りの43%は地震エリアではない地域在住であった.本研究は,それらの2群を比較した前向きコホート研究である.

(1)カンタベリー地震: 2011年2月22日12時51分にニュージーランドのカンタベリー地方で発生したモーメントマグニチュード(Mw)6.1の地震. クライストチャーチ周辺が被害を受けており,クライストチャーチ大聖堂の塔が崩壊し,市内の多くの地域で停電や断水が発生.また,クライストチャーチでは観測史上最大規模の液状化現象が発生し,カンタベリー大学の調査では被害家屋は40,000-50,000棟に上るとされている.死者は185人とされている.(Wikipediaより)

目的  社会属性,震災前のメンタルヘルス,幼少期の家庭環境といった交絡要因(2)を調整後の震災曝露とメンタルヘルスの関連を検証すること (2) 交絡要因:特定の要因のある結果への影響を調べる場合,第3の要因が両者に影響を及ぼし,期待される要因の推定値が得られない場合,その第3の要因を交絡要因と言う.

方法

ニュージーランドの子供(男635 女630)の35年バースコホートデータを用いた.このうち,震災曝露とメンタルヘルスの情報が得られた年齢35歳の952名が対象となった.

曝露

-2010年から11年にかけての4回のリヒタースケール(マグネチュード)6.0以上の経験

主要評価項目と測定方法

-大うつ病,心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder: PTSD), 不安障害,自殺願望/試み,ニコチン依存,アルコール乱用/依存を主要評価項目とした.

-上記の主要評価項目は震災後20-24か月後にDSM-IV(3) と潜在性データ(4)に基づいて測定された.

(3)DSM-IV: 精神疾患の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) 精神疾患の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するもの. アメリカ精神医学会によって出版された書籍. DSMの第3版より,明確な診断基準を設けることで,精神科医間で精神疾患の診断が異なるという診断の信頼性の問題に対応している.現在は,第5版(2013年5月~).

精神疾患の分類と診断の手引より

(4)うつは,患者や家族が単なる気分の落ち込みだと思っていても,光トポグラフィー(うつ状態の原因になっている精神疾患の鑑別診断を補助するもので、約6~8割の精度でうつ病・双極性障害(躁うつ病)・統合失調症のいずれかの可能性が高い人を判別できるという報告あり)のような客観的データを示す検査があることで,病気を自覚しやすく家族の理解にも役立つ.自覚症状のない無症候性脳梗塞による血管障害でうつ病を発症しているような場合もあるが,MRI(核磁気共鳴画像法)などの画像診断と合わせることで, より的確な診断が行えるとされる.(山下一也 日本脳卒中協会より)

本研究でいう潜在性データ(subclinical symptom data p1026 L3)は,こうした,画像診断データではなく,DSM診断基準には合致しないが診断基準に含まれる症状のいくつかが現れている状態のことを示している.(八木明男先生のメールレクチャーより)

結果

-共変量を調整後,震災曝露が大きい人は曝露されていない人の1.4倍(95% Confidence Interval, CI,1.1-1.7) 大うつ病,PTSD,不安障害,ニコチン依存といった精神疾患となっていた.潜在的に症状を持った人を含めても同様の結果であった(incidence rate ratio, IRR(5)1.4; 95%CI, 1.1-1.6).

-本コホート研究において,カンタベリー地震曝露群の精神疾患の10.8%から13.3%が,震災曝露によるものであることが示された.

(5)incidence rate ratio: ある期間における曝露群と非曝露群の罹患率比

-Prevalenceは,基本的にはある一時の一般人口(サンプル)における罹患者の割合.

-Incidenceは,目的とするアウトカムの,ある期間における新規発症のことをさし,時間を含む概念.

-Rate ratio = Incidence rate in exposed group / Incidence rate in non-exposed group

(罹患率比=曝露群の罹患率/非曝露群の罹患率)(長嶺由衣子先生のメールレクチャーより)

結論

-交絡要因を調整しても,カンタベリー地震の曝露は,精神疾患発症リスクを上げていた.

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