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【2月抄読会】The Gerontologist (IF 2.8), 2014 Jul 25 [Epub ahead of print] The Protective Effects of Relig

The Gerontologist (IF 2.8), 2014 Jul 25 [Epub ahead of print]

The Protective Effects of Religiosity on Depression: A 2-Year Prospective Study

Ronneberg CR, Miller EA, Dugan E, Porell F.

【要旨】

背景:アメリカ合衆国では約20%の高齢者がうつと診断されている.宗教活動や信仰がうつに対して保護的に影響することが報告されてきた.本研究では,パネルデータを用いて,信仰がうつの保護要因となるか,またはうつのリカバリー要因となるかについて検証した.

方法:Health & Retirement Study(HRS)*の2006年(ベース)と2008年(追跡)データを使用した.対象者は,50歳以上の1992名のうつ症状のある人と5740名のうつ症状のない人である(2006年時の平均年齢68歳).組織的信仰活動,非組織的信仰活動,本質的信仰活動とうつ(2006年時にうつでなかった人で2008年時うつになった人),とうつからのリカバリー(2006年時にうつだった人で2008年時にうつでない人)の関連をロジスティック回帰分析によって検証した.

結果:信仰はうつに対して保護的に関連し,更にうつからのリカバリー要因にもなっていた.ベースライン時にうつでなかった人は組織的活動によく参加していると,2年後もうつにはならない傾向であった.またベースライン時にうつだった人は,非組織的活動に多く参加していると,2年後はうつからリカバリーしている傾向であった.

考察:組織的でも非組織的でも,信仰はうつの予防やうつからのリカバリーに影響している.高齢者のうつ予防やうつからのリカバリーのためには宗教活動参加に関心のある人に礼拝場所への移動手段を整備することや医療従事者と宗教活動や信仰心について語り合えるようにすることが必要である.

【本文】

背景

信仰心についてはpositive, negative, そして関連を示さないといった結果があるが,多くの調査ではうつに対して保護的であると言われている.信仰は,更に,心筋梗塞や重度精神障害からのリカバリーのみならず,早期退院にもつながることが示されている.特に米国では90%以上に信仰心があり,信仰はうつの予防やリカバリーに大きな影響力がある可能性がある.特に50歳以上となると,70%もが信仰が大事であると回答しており,30歳以下の44%に比較して信仰を重視する人が増える.年齢と共に信仰重視の人が増え,高齢になるとうつの人も増加するので,高齢者での,信仰心やその活動がうつにどう影響するかを検証することが求められている.また,信仰とうつの関連についての既存研究は,ほとんどが横断研究であり,縦断研究のものも,アフリカンアメリカンの高齢者や,精神疾患を持つ成人に限定されたもの,あるいは,ある地方の対象に限られたもの,又は米国以外のものである.対象者数も少なく,信仰についてうつからのリカバリーへの影響にのみ焦点を当てているものがほとんどであり,信仰がうつの保護要因となるかには着目していない.

 本研究では,信仰がうつを予防し,信仰がうつのリカバリー要因となるのかを検証するために,ベースライン時と2年後にうつレベルを測定した.本研究では既存研究ではできていない,より大きな米国の代表サンプルを用いて前向きな縦断研究を行っている.更に,多用な信仰に関する指標(組織的か非組織的か,信仰心の強さ,信仰の重要度,祈りの場所での友人や親戚の存在)を用いている.

うつのストレス脆弱性モデル**では,生物学的(年齢,性別, 健康状態,慢性疾患,障害,疾患の再発),心理的(精神疾患,アルコール依存症),社会的要因(婚姻状況,教育,収入,社会的サポート,ボランティア活動,不運なライフイベント)が個人のうつに影響している.

本研究では,信仰が個人のうつへの脆弱性を緩和する保護的要因となると仮定している.

仮説1. ベースライン時にうつでない高齢者の中で,高い信仰がある人は,信仰が低い人より2年後にうつを発症しない.

仮説2. ベースライン時にうつの高齢者の中で,高い信仰がある人は,信仰が低い人より2年後にうつであるリスクは低い.

既存研究に基づき,信仰を3つに分類

-組織的:公的又はグループ活動でそうした活動参加で測定されることがほとんど.

-非組織的:特に時間の制約がなく私的に一人で宗教本を読み,祈り,瞑想すること.

-本質的:個人の主観による信仰でどれほど信仰が日々の生活に影響を及ぼしているかを測る.

方法

対象者:HRSスタディのサブグループで,2006年調査に回答した7732名.944名(12%)については,一つ以上の回答が欠損となっていたため,マルチプル・インピュテーションを用いて,補完した.

従属変数:

2008年時のうつ.Center for Epidemiological Studies Depression scale (CESD-8)***を用いて,3つ以上当てはまった場合にうつと定義した.臨床のうつ診断によって基準関連妥当性が検証されカットオフ値を3としている.

独立変数:

信仰

-宗派

-組織的信仰活動参加の頻度

-組織的信仰活動に友人や親戚がいるかどうか

-信仰の重要度

-非組織的信仰活動

-本質的信仰度

共変量:

年齢,性別,人種,慢性疾患(高血圧,肥満,がん,肺疾患,心臓病,脳卒中,関節炎),主観的健康感,Instrumental activities of daily living (IADL), Basic activities of daily living (ADL), アルコール依存度,婚姻,教育,収入,独居,ボランティア参加,近所に家族や友人がいるか,過去2年の不遇なライフイベント,住居場所,代理回答かどうか.

分析:

-基本記述統計はうつとうつでない人の2群間比較(Table 1)

-うつと信仰についての多変量解析にはロジスティック回帰分析を用い,ベースライン時の変数で調整(Table 2). ベースラインにうつだった人のモデルとベースライン時にうつではなかった人のモデルの2つのロジスティック回帰分析.

結果

Table1 (p5)

ベース時のうつとうつでない人の比較

-宗派の違いは有意でない.

-うつでない人の方が信仰活動参加割合が多い (37.2% vs 45.0%, p<.001).

-うつでない人の方が集会場所に友達がいる(50.1% vs 58.7%, p<.001).

-うつでない人の方が信仰の重要度が高い割合は少ない傾向(69.8% vs 67.7%, p<.01).

-本質的信仰度は有意ではないが,非組織的に祈りをしている頻度はうつでない人の方が低い(t=-3.17, p<.01)

Table1 (p6)

-社会属性では,アルコール依存,不遇なライフイベント,近隣に住む親類の割合,代理回答割合以外では有意な差があった.

Table2 (p7-8)

ベース時にうつの人のフォローアップ時のうつに関するロジスティック回帰分析結果

-ユダヤ教の人はフォローアップ時にうつであるオッズは2.05 (p<.05, カソリックreference)だが,非組織的に祈りをする頻度が高い人ではオッズは低い0.93 (p<.05).

-健康な人(OR0.43, p<.01),未亡人(OR0.72, p<.05), 収入が高い(OR0.73, p<.05; OR0.66, p<.05), Nursing home住居者(OR0.41, p<.05)はフォローアップ時にうつであるオッズは低い.

-疾患 (OR1.57, p<.01),精神的問題(OR1.61, p<.001),不遇な出来事(OR1.46, p<.05),親戚が近くに住んでいること(OR1.31, p<.05)でフォローアップ時にうつであるオッズは高い.

ベース時にうつではない人のフォローアップ時のうつに関するロジスティック回帰分析結果

-信仰活動参加頻度が高いことはフォローアップ時にうつであるオッズは0.65(p<0.01).また信仰活動参加頻度が低い又はないこともフォローアップ時にうつであるオッズは0.75(p<.05)(中程度の参加頻度がreference)と低い.

-女性(OR1.44, p<.001),慢性疾患(OR1.09, p<.05),主観的健康感が低い(OR1.77, OR2.69, p<.001),精神的問題(OR1.93, p<.001),不遇な出来事(OR1.42, p<.01), 独居(OR1.35, p<.05), 親戚が近くに住んでいること(OR1.23, p<.05)でフォローアップ時にうつであるオッズは高い.

-主観的健康感がいいこと(OR0.54, p<.001, OR0.72, p<.01), 収入が高い(OR0.69, p<.05), 代理回答(OR0.24, p<.001)でフォローアップ時にうつであるオッズは低い.

考察

仮説1. ベースライン時にうつでない高齢者の中で,高い信仰がある人は,信仰が低い人より2年後にうつを発症しない.

-仮説通りの結果で(信仰活動頻度:信仰活動が盛んな人はうつを発症しづらい),参加頻度が高いと,社会サポートなどを信仰活動の場で受けられるからと考えられる.信仰活動を通じて形成される周囲との関わりなど,social capitalが豊かになることによってうつに対して保護的に作用している可能性がある.

-また予想と反して,活動参加が低い人あるいはない人でも,うつ発症が低かった.これは,こうした人が公的性の低い形で信仰活動に参加している可能性がある.これは,非組織的な活動頻度と組織的活動頻度が逆相関していることからも推察される.つまり,信仰活動頻度の高い人は公的または組織的な信仰活動に参加しており,信仰活動頻度の低い人は非組織的な形で関わっていると思われる.対照的に,中程度の頻度の人はいずれからの恩恵も受けにくい可能性がある.

仮説2. ベースライン時にうつの高齢者の中で,高い信仰がある人は,信仰が低い人より2年後にうつであるリスクは低い.

-仮説通りの結果であった(非組織的に祈りをする頻度が高い人はうつになりにくい).うつの人は様々な不遇なライフイベントへの対処として,信仰を用いている可能性がある.

-ユダヤ教徒はフォローアップ時にもうつであるオッズが高かった.これには,少数派の宗教の人がメンタルヘルスに支障をきたすことが言われており,反ユダヤ主義が過去には横行していたので,高齢者にとっては重要な知見である.その他の考え得る理由としては,ユダヤ教信者がその他の信仰をもつ信者と同じような恩恵を受けていないという可能性も考えられる.信仰の考え方で,死後や天国で自身が再生され愛する人たちと再会するという考え方がキリスト教にはあり,こうした信仰がつらい時を乗り越えたり,リカバリーする重要な考え方になっていると考えられるが,死後をあまり重視せずに,現在に重きを置くユダヤ教ではこうした,キリスト教と同じような影響をうつに及ぼさない可能性が考えられる.

おまけ

 その他の予想外の知見として,近くに親戚が住んでいることがベース時にうつでない人,うつである人のいずれにおいても,フォローアップ時にうつになりやすい傾向であった.可能性としては,親戚が近くにいると予想外の仕事,例えば,自身の両親や親戚,あるいは孫の世話や看病などが発生し,ストレスや負担になっている可能性が考えられる.また,単に近さだけでは,その関係性の頻度や質はわからないといった面もあるだろう.

限界

-Gold Standardである臨床的な診断ではなく自記式のCESD-8によるスクリーニング検査.

-研究調査期間が2年と短く,うつの突発的な発症などの性質上,分析期間後に発症するかもしれない人々は拾えていない可能性がある.

-HRSでは信仰のみを測定しており,スピリチュアルな部分を測定できていない(先行研究によってスピリチュアルな部分がうつや精神疾患の低下に関連することが示されている).

結論

-組織的あるは公的な信仰の集まりやサービスに高齢者も利用できるように集会場への移動手段を充実させることでうつ予防につながる可能性がある.

-医療従事者が信仰に関するサービス参加やプライベートな祈りについてのうつ低下への影響を認識し,ケアや治療に生かしていくべきである.

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