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【12月抄読会】 スタックラ-他「経済政策で人は死ぬか?― 公衆衛生学から見た不況対策」の書評

毎月抄読会を行っています。

12月は下記の本を読みました。

近藤先生の書評は以下です。

ご一読ください。

経済政策で人は死ぬか-公衆衛生から見た不況対策

(公明新聞 12月29日掲載)

一般に「富めるものほど健康」である.では不況時には健康はどうなるのだろうか?本書は失業して健康を損なった経験も持つ公衆衛生学者が,文献リストに示された膨大な研究成果と事例も交えながら,一般の人向けにその答えを教えてくれる本である.

 不況になると失業者が増え,うつやアルコール関連死や自殺が増えた一方で,意外なことに減っている死因もあった.交通事故死である.もう一つ,彼らが明らかにしたのは,不況時に国民の健康状態が悪化した国がある一方で,その程度が小さく,むしろ改善した国すらあるという事実である.例えば1930年代の大恐慌時代の米国で,ニューディール政策に積極的だった州と消極的であった州を比較すると,乳児死亡率や伝染病疾患,自殺などに大きな差が見られた.住宅政策や失業対策,成人向けの夜間大学,予防接種や栄養プログラムなどに熱心に取り組んだ州で,これらの健康指標が良かったのだ.

ソ連崩壊と市場経済移行後のロシアとベラルーシ,アジア通貨危機後のタイとマレーシア,さらにサブプライム危機後のアイスランドやスウェーデン,フィンランドとギリシャやイギリス,イタリアなど,不況にさらされた多くの国々において,社会政策の予算を増やしたか緊縮財政策か,その対応次第で大きな差が一貫として見られることを明らかにしている.「不況時には財政赤字と債務増加の悪循環を招くから緊縮財政を」というエコノミストやIMFの助言に従い,公共住宅予算,医療費,失業対策費などを削減した国でHIVや結核,自殺などが増えた一方で,社会政策の予算を増やした国々では国民の健康が守られた.しかも社会政策を拡充した国の方が,維持された健康水準などが経済復興にも結びつき、より早期に景気が回復し,財政赤字や債務も減少したという.

彼らの結論は明確である.生死を分けるのは経済危機そのものではない.その後の対処である.社会経済政策が,どんな薬や手術より,人の生死に影響を与えることを,迫力をもって描き出した本である.

近藤克則(千葉大学 予防医学センター 教授)

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